
プリメックRD10月号 目次 ① 医療人の主張&提言 医療の原点はカウンセリング ② 健康と病気の間の「未病」を科学(下)東洋医学的未病の「見える化」 ③ TOPIX/自然素材にこだわる健康住宅 ④ 未病ケア 服用薬によってサプリの摂り方は変わる ⑤ 店舗リー...
健康増進クリニック院長 水上 治
一般社団法人日本未病学会理事長 吉田 博
豊かな自然環境を活かして、ストレスケアの場を提供
薬剤師、NR・サプリメントアドバイザー 大石順子
Social Healthcare Design株式会社 代表取締役 亀ヶ谷 正信
Premec RD編集部
何種類ものクスリを服用するポリファーマシー(多剤併用)が問題視されている。とりわけ、いくつもの病気を抱える高齢者は、どうしてもクスリの処方が増えてしまいがちだが、不適切な処方は、副作用を引き起こすばかりか残薬など薬剤費の無駄を生じてしまうことになる。クスリ漬け医療に警鐘を鳴らす健康増進クリニックの水上治院長に、薬物療法の問題点を語ってもらった。
クスリの処方を見直さなければならないのは高齢者だけではありません。サラリーマンなどが受ける健康診断では、2つも3も病名をつけられて、健康人が病人にされて、クスリを飲まされているという現実があります。メタボにしても診断基準はまだ標準化されていません。以前は160/95以上が高血圧と判定されていましたが、年々厳しくなり、140/90以上へと変えられた経緯があります。この基準値でいくと、日本人の半分は高血圧に入ってしまいますが、そんなことはあり得ません。
また、血糖値が基準値を超えると血糖降下薬が処方されますが、クスリを飲めば治るのでしょうか。答えはNOです。薬物介入を基本とする日本の保険医療制度では、出来高払いが基本となっていますので、検査や投薬が増えるほど診療報酬が加算される仕組みになっています。高血圧症や糖尿病などの生活習慣病は、完治させるのではなく病態管理、つまり現状をキープすることで医業経営は成り立つのです。ですから、クスリの投与量は減らないばかりか、合併症等によってさらにクスリの種類や量は増え続けることになるのです。
私は自分なりに納得した医療を実践してきました。医療制度の制約もあり大変な思いもしてきましたが、それによって自分が磨かれ、見分ける目も養われてきたと自負しています。日頃、患者さんと接していて思うことは「医療の原点はカウンセリングである」ということです。医者の仕事は自分の意見や考えを押し付けることではなく、患者さんの思いを引き出すことであり、患者さんに希望を抱いてもらうことにあるのです。絶望の淵に立たされた末期がんの患者さんでも、話をするうちに意識が変わり、希望を見出すようになります。
とくにがんなどは患者さんの気持ちが変わらなければ治りません。抗がん剤や手術に頼るのではなく、「がんを治すのは自分だ」ということに気付かなければ始まらないのです。体内環境を改善して細胞を活性化させれば、がん細胞は生きていけないと、私は確信しています。逆に生命力が低下してしまうと、がん細胞が棲みやすい、増殖しやすい体内環境になってしまいます。人間の生命力というのは凄まじいものがありますから、それを活かすことが賢明です。私は常々患者さんに、「生命力を信じなさい」「それしかない」としつこく言っています。
人間には40兆個もの細胞があると言われています。その小さな細胞が絶妙に機能しあいながら、生命活動を支えているのです。40兆という数自体も想像を絶しますが、そのうち、形も機能も違う細胞が200種類以上もあり、それらの異種細胞が互いに連携しながら生体を維持していることは、まさに小宇宙のリズムと言えるでしょう。この生体の不思議なリズムによって怪我や病気も治るようにできているのです。切り傷だって、しばらくすると治りますよね。止血剤を打たなくても勝手に血は止まるのです。人は自ら元に戻ろうとする力を秘めています。これを「自己治癒力」と呼んでいますが、言葉は知っていてもその意味を正しく理解している人はそう多くはありません。熱が出ればすぐに解熱剤を使う。それで治りを悪くしているのです。
医者に頼る、クスリに頼るといった他力本願の心は、裏を返せば自分自身を信じられないということでしょう。そのような自分の過小評価から、解放させてあげることが医者の本来の役目なのです。もちろん患者自身も意識改革の努力が必要です。「私には自分で治す力がある」と思えるには、生命に対する知性が必要なのです。そのような感性をもった知性人は健康に恵まれ、自分の夢や自己実現に向けてしっかりと人生を歩んでいけると思います。
医療を提供する側も、患者さんをしっかりサポートしていく体制を整えておくことが大事です。がん医療は日進月歩ですから、医師は最新のがん医療全般に精通していないと適切なアドバイスができません。患者さんに最新で最適な医療を実践している近くの医療施設とネットワークを組むことも必要です。そして、医師以外の医療従事者は、最新がん医療に精通した医師とタイアップして、がん患者さんに対処すべきでなのです。
Informed Consent(情報を与えられた同意)をさらに進めて、Shared Decision Making(情報共有下での決断)の時代に入ってきています。
完璧ながん医療も正しいがん医療もありません。より信頼できる情報の中から、患者さんが自分の価値観や人生観、死生観をよりどころにしながら、情報提供者たる医師が患者さんの決断をサポートしていくのですが、現実は簡単ではありません。近くに心から信頼できる医者がいたら、患者さんは幸せです。医者が患者さんに寄り添い情報を共有しながら医療を創っていくことができたら、がん医療の未来は明るいと言えるでしょう。
ご存知の通り、超高齢社会となった日本では、健康寿命を延長させることが最大の政策課題となっています。この流れに沿って臨床現場では、従来の生活習慣病、がん治療に加えて、認知症やフレイル(虚弱状態)への早期対策が求められてくるでしょう。これらの課題に応え、理想の医療を実現させるために、私は5年前に「一般財団法人国際健康医療研究所」を設立しました。
財団活動の構想の一つに、都道府県や市町村と連帯しながらモデルとなるクリニックをつくることがあります。ドイツのクアオルト(Kurort)のような健康増進施設を併設したイメージです。ここで医師やコ・メディカルの医療従事者に健康医療教育を行って、内外に派遣することも考えています。また、学術団体のように研究成果を発表したり、論文化することも大事ですが、それだけではなく、例えば良質のサプリメントを普及する支援を行ったり、公共施設や老健施設などで健康セミナーを開いて、健康長寿のための啓発活動を行うなど、時宜にかなった多彩な活動を展開していきたいと考えています。
当面の課題としては、①地域に根差した予防・健康増進の支援、②エイジング(加齢)指標を用いた新しいドックの開発とデータベースの構築、③栄養・運動指導、マインドフルネスなどの実践と、フォローアップデータの確立、④がん難民と呼ばれる人々へのコンサルティング-の4つを実践目標に掲げています。
当財団の役員には、生活習慣病とエイジング領域を中心に、大学関係者や医療最前線で活動されている専門家がおりますので、これらの先生方と力を合わせて取り組んでいきたいと考えております。
健康増進クリニック院長。
1948年、北海道函館市生まれ。1973年、弘前大学医学部卒業。
1973年、(財)河野臨床医学研究所附属北品川総合病院内科勤務。
1978年、東京衛生病院内科勤務。
1985年、東京医科歯科大学で疫学専攻、医学博士。
1990年、米国カリフォルニア州ロマリンダ大学公衆衛生大学院で健康の様々な分野に及ぶ120単位を取得し卒業。米国公衆衛生学博士。
東京衛生病院・健康増進部長を経て、2007年に東京都千代田区に健康増進クリニック開設。
一般財団法人国際健康医療研究所理事長。
医学生時代から、自己治癒力が疾病克服の鍵と考え、西洋医学を根本にしながら、エビデンスの高い、体にやさしい治療法を臨床現場で施行し続けている。
高濃度ビタミンC点滴療法を実施したパイオニアの一人。
著書に『日本一わかりやすいがんの教科書』(PHP研究所)、『がん患者の「迷い」に専門医が本音で答える本』(草思社)などがある。
近著は「日本型がん医療を求めて」(ケイオス出版)。
取材:Premec RD編集部
前回は、未病には「西洋医学的未病」と「東洋医学的未病」の2つの概念があり、それぞれの未病期には「未病1期(自立支援)」と「未病2期(治療支援)」の2段階があることを説明しました。今回は、自覚症状があっても検査では異常がない「東洋医学的未病」を調べる手段として、いくつかの検査方法を紹介します。
自覚症状があるのに検査では異常所見が見つからない東洋医学的未病については、自覚症状を数値で判定できる検査法やマーカーを開発する必要があります。その一つとして、日本未病学会・臨床検査部会では、大阪大学や地方独立行政法人りんくう総合医療センターとの共同研究で、毛細血管から未病状態を捉えるメソッドの開発に取り組んできました。
身体全体に張り巡らされている毛細血管の長さは地球2周半分に相当する約10万㎞に及びます。一般的な検査では、静脈血栓症や動脈瘤の原因となる太い血管に目が向きがちですが、一番多い血管網は毛細血管なのです。毛細血管を画像で見てみると、血管内皮細胞が老化して血流していない状態、つまりゴースト血管(無機能血管)になっている様子を確認することができます(図1)。このような段階では既に病気の状態ですが、その前段階の正常血管とゴースト血管の間の状態を定量化し、どの段階にあるのかを数値化できれば、一つの未病マーカーになるでしょう。
もう一つは、動脈硬化の原因とされる脂質異常を質的に判定する方法があります。HDLは善玉と言われていますが、最近の研究では、HDLコレステロール値が高くても低くても動脈硬化症になりやすく、死亡率も高くなることがわかってきました。
死亡リスクとHDLコレステロールの関係を調べた研究データを見ると、4つの対象者グループのHDLコレステロール濃度の平均値は同じなのに心疾患リスクに差があることがわかります。なぜ違うのでしょうか。HDLは、コレステロールを末梢組織から肝臓に運搬していると考えられていますが、そのプロセスのなかで、動脈硬化の病巣であるプラークからコレステロールを引き抜く能力が基本的に重要であることがわかっています。HDLコレステロール濃度が同じでも心疾患リスクが違ってくるのは、この引き抜く能力の違いが要因の一つだったのです。
今や世界ではHDLを量で測定するだけでなく、引き抜く能力を評価するほうが、心血管疾患を予防するうえで有効であるとの考え方に移行しつつあります。メタボ健診などではコレステロール濃度を測っていますが、濃度(量)ではなく機能(質)を測ることが重要かもしれません。
この他にも、HDLコレステロールと心血管疾患発症リスクを調べる方法に、両腕・両足首の血圧と脈波を測定するCAVI(キャビィ)検査があります。これは血管のしなやかさ、固さを数値化して動脈硬化の状態を推し測るもので、数値が8以下であれば正常、9以上だと動脈硬化のおそれあり、8から9の間はグレーゾーン(未病)と判断されます。
東京慈恵会医科大学附属柏病院で行った研究では、魚油のn-3系不飽和脂肪酸(EPA、DHA)と、n-6系不飽和脂肪酸のアラキドン酸(AA)の血中濃度を測り、双方の比率を調べてみました。すると、AA値が高く相対的にEPA、DHAが低い人ほど動脈硬化が進んでいることがわかりました。この結果は、久山町研究で実施された研究結果と類似した結果でした。久山町研究では、EPA/AA比が低下すると心血管リスクが3.8倍も上昇しますが、DHA/AA比とは関連が明確には見られませんでした(図2)。この傾向は我々の研究結果にあるAA値が高い群のデータとほぼ同じだったのです。EPAとAAの比率(バランス)をみる意義は少なからずあると言えます。
我々の研究や久山町研究でAA濃度に着目してみます。AA値が高い人とAA値が低い人を比べてみますと、臨床経験からAA値が高い人は栄養が過多か偏っている、あるいは糖尿病に罹っていることなどがわかっています。このようなAA値が高い人は潜在性の炎症反応が高いことが推察され、炎症マーカーの高感度CRPとの関連性が推察されます。先程のHDLの質的検査とCAVI検査を組み合わせれば、より明らかな検査結果として未病の値も浮き彫りになるかもしれません。これからの未病検査では、生化学的検査と生理的検査を抱き合わせた新たなアプローチが必要になると考えています。
昭和62年、防衛医科大学卒業。
平成8~10年、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部留学。
平成15年、東京慈恵会医科大学内科学講座講師。
平成19年、同大学臨床検査医学講座准教授。
平成22年、同大学付属柏病院副院長。
平成25年、同大学臨床検査医学講座教授。代謝栄養内科学教授兼任。
専門医:日本内科学会(認定医、総合内科専門医、指導医)、日本循環器学会(循環器専門医)、日本動脈硬化学会(動脈硬化専門医)、日本臨床検査医学会(臨床検査専門医・管理医)、日本老年医学会(老年病専門医・指導医)、日本臨床栄養学会(認定栄養指導医)、日本未病学会(未病医学認定医)、日本臨床薬理学会(特別指導医)
取材:Premec RD編集部
「健康にとって寝室の環境がいかに大事かを教えてくださったのは実際にお住まいになられたお客様でした。今から12年前、全身がアトピーで苦しむ22歳のお嬢様がいらっしゃるご家族のお住まいを建築しました。お嬢様の健康に配慮して建材を自然素材のものだけにしてつくりました。すると住み始めてからお嬢様のアトピー症状が徐々に良くなり、一年後には治ったのです。この住宅をつくる契機となったのは、アトピーが完治した赤ちゃんを持つお母様の言葉でした。この家が無かったらこの子はどうなっていたかわかりません、と涙ながらに語ってくださったのです」―。
こう語るのは同社の金光社長。親の涙に嘘はないと確信した金光社長は、それ以来すべての物件を、健康住宅にすることを決めた。同社がつくる「健康住宅」とは、内装材に化学物質を含まない珪藻土や木材などの自然素材にこだわった住宅。この12年間で240棟を超える物件を手掛けてきた。この間、合板や新建材、ビニールクロスなどを多用した住宅の時には得られなかった感想が次々と寄せられるようになった。顧客の感想文が束ねられたファイルには、アトピーや喘息が治ったとの喜びの声や、偏頭痛、不眠などが改善し元気になったことへの感謝の言葉が綴られている。顧客が「健康住宅」に住む前と、住んだ後で変わったことといえば、唯一「室内の空気」だけだったという。
「家の空気というのは、そこで暮らす家族全員が一分一秒たりとも休むことなく呼吸します。呼吸をすれば必ず室内の空気はご自身の大切な身体を通ります。ですから、空気は目には見えなくても、きれいかどうかは自然に体が反応するのでわかるはずです。私たちは自然素材の力で、家の外の空気は変えられなくても、家の中の空気はきれいに変えられる、と確信したのです。健康住宅をつくり始めてから5年ほど経過したある日、お客様の喜びの声の中に一つの共通項が浮かび上がってきました。実はそれが“睡眠”だったのです。それなら、寝室をもっと良くすればさらに良くなるのではないか、と試行錯誤を重ねた結果、誕生したのが『究極の寝室®』(特許第6466492号)です」(金光社長)。
取材:Premec RD編集部
静岡県薬剤師会 医薬品情報管理センター 前所長(栄養情報担当者)
取材:Premec RD編集部
主人公。ドラッグストア「ヘルシーライフ薬局」の医薬品売り場リーダー。医薬品登録販売者。パート経験15年から正社員登用。思考型の性格で論理的だが、最近仕事の面白さに目覚めている。13歳の娘を持つ母親。
ベテランパートスタッフ。20年以上の経験を持つ。美咲より年上だが、美咲の指示に従う立場。時々古いやり方に固執することがある。
近所のクリニックの医師。美咲が健康について相談する存在。
店長。多店舗を管理しており忙しく、現場とのコミュニケーションが希薄。数字重視の傾向がある。
田中美咲(40歳)は、朝のアラームが鳴ると同時に重いため息をついた。
また今日も頭痛がする。肩こりも相変わらずひどい。
「お母さん、朝ごはん」
13歳の娘・恵の声に、美咲は慌てて起き上がった。
「ごめん、今作るから」
キッチンに向かいながら、美咲は昨夜のことを思い出していた。
夫の正樹が「最近疲れてるみたいだけど、大丈夫?」と声をかけてくれたのに、「大丈夫、ちょっと忙しいだけ」と素っ気なく答えてしまった。
実際のところ、美咲は自分でも何が原因で体調が悪いのかよく分からなかった。
ドラッグストアでの仕事は15年のキャリアがあり、医薬品登録販売者として責任ある立場になってからも2年が経つ。慣れているはずなのに、なぜかここ数ヶ月、心身の調子が優れない。
「ヘルシーライフ薬局」に出勤すると、ベテランパートの佐藤ゆかりさん(55歳)が心配そうに声をかけてきた。
「美咲さん、顔色悪いわよ。大丈夫?」
「ああ、ちょっと疲れが取れなくて…」
美咲は苦笑いを浮かべながら答えた。
実際、ここ最近はミスも増えている。昨日も医薬品の在庫確認で数字を間違え、店長の山田さんに注意されたばかりだった。
その日の昼休み、美咲は近所の小川クリニックを訪れた。
健康診断でお世話になっている小川医師に相談してみようと思ったのだ。
「血液検査の結果は特に異常ありませんね。でも、田中さん、最近よく眠れていますか?」
小川医師の質問に、美咲は考え込んだ。
「そう言われると…夜中に目が覚めることが多いです。
仕事のことを考えてしまって」
「食欲はどうですか?」
「あまりないです。朝は特に。お昼も簡単に済ませてしまうことが多くて」
小川医師は優しい表情で美咲を見つめた。
「田中さん、もしかして最近、ご家族との対話の時間は取れていますか?」
その質問に、美咲はハッとした。そう言えば、娘と一緒にいても会話は減っているし、夫との対話もほとんどない。
仕事から帰ると疲れて、テレビを見ながらぼんやりしていることが多いからだ。
「実は、私たちの健康は『ココロ』『カラダ』『キズナ』の3つが密接に関係しているんです」
小川医師は手元の紙に3つの輪を描いた。
「ココロは精神的な充実感、カラダは身体的な健康、キズナは人とのつながりです。この3つは相互に影響し合っています」
美咲は興味深そうに聞いていた。
「例えば、カラダの調子が悪いと、ココロも沈みがちになりますよね。
そして、家族や同僚との関係がギクシャクする。逆に、人間関係のストレスがあると、食欲がなくなったり眠れなくなったりする」
「確かに…最近、娘にもイライラしてしまうことが多くて」
「それです。田中さんの場合、おそらく仕事の忙しさで『カラダ』のケアが疎かになり、それが『ココロ』の不安定につながって、結果的に『キズナ』にも影響している。そして、その悪循環が仕事のパフォーマンスにも影響を与えているのではないでしょうか」
美咲は納得した。確かに、体調が悪いと集中力が落ちて、ミスが増える。ミスをすると自信を失い、さらにストレスが増す。そして、家に帰っても疲れて家族と向き合えない。
「では、どうすればいいんでしょうか?」
「まずは、この3つのバランスを意識することから始めてみてください。
例えば、今日は『カラダ』のために栄養のある食事を取る。
そして、いつもより早く寝る。睡眠の質を上げる工夫をすると更に良いと思います。
明日は『キズナ』のために娘さんとゆっくり話す時間を作る。
そして『ココロ』のために、自分が好きなことを少しでもする時間を確保する」
その夜、美咲は久しぶりに娘の恵と一緒に夕食の準備をした。
「お母さん、最近忙しそうだね」
恵の何気ない言葉に、美咲は胸が痛んだ。
「そうね…でも、今日からはもう少し一緒の時間を作るようにするから」
「本当?じゃあ、今度の休みに一緒に映画を見に行かない?」
恵の嬉しそうな表情を見て、美咲は心が軽くなるのを感じた。
翌週、美咲は意識的に3つのバランスを取るよう心がけた。
朝はしっかりと栄養のある朝食を取り、職場では同僚との会話を大切にし、帰宅後は家族との時間を優先した。
実行する前は多少面倒に感じたが、実行したあとは、驚くべき変化が起こった。
規則正しい生活は、疲れを翌日に持ち越さない上で役に立った。
体調が改善されただけでなく、気分もかわり、仕事での集中力も戻ってきたのだ。
仕事でのミスが減り、お客様への対応も以前より丁寧になった。
ある日、常連のお客様である伊藤みどりさん(65歳)が美咲に声をかけた。
「田中さん、最近表情が明るくなったわね。なんだか相談しやすくなったわ」
その言葉を聞いて、美咲は初めて実感した。
自分の内面の変化が、ココロ、カラダ、キズナのバランスを整え、仕事にも良い影響を与えているのだと実感したのだった。
人間の脳には、これら3つの要素を統合的に処理するシステムがあります。例えば、身体的な不調(カラダ)は、ストレスホルモンの分泌を促し、それが気分の落ち込み(ココロ)を引き起こします。同時に、この状態は他者とのコミュニケーション能力を低下させ(キズナ)、結果として人間関係に悪影響を与えます。
逆に、良好な人間関係は、オキシトシンやセロトニンといった「幸せホルモン」の分泌を促進し、免疫力向上や睡眠の質改善につながります。これが美咲が体験した好循環の科学的根拠です。
研究によると、ウェルビーイングが高い従業員は、低い従業員と比較して
・生産性が向上
・売上が向上
・ミスが減少
・離職率が低下
することが分かっています。美咲の仕事上の改善は、決して偶然ではありません。
重要なのは、3つの要素を「バランス」よく保つことです。どれか一つだけに偏重するのではなく、相互の関係性を意識しながら、日々の生活の中で調整していくことが必要です。
今週取り組める3つの行動:
1.健幸度チェック:
毎日寝る前に、「ココロ」「カラダ」「キズナ」をそれぞれ10点満点で自己評価し、メモに記録する。バランスの崩れに早期に気づけるようになります。
2.健康行動から健幸行動へ:
「歩く」という健康行動にしても、「ココロ」を満たすために音楽を聴きながら行ったり、「キズナ」を満たすために誰かと一緒に歩いたり。ちょっとした工夫をすることで、楽しみながら続けることができます。
3.週間振り返り:
週末に、3つの要素のバランスが自身のパフォーマンスにどう影響したかを振り返る。改善点を次週の行動計画に活かしましょう。
取り組む際の注意点:完璧を目指さず、小さな変化を積み重ねることが重要です。無理をすると、かえってストレスになり逆効果になることがあります。
次回は「脳という司令塔」をテーマに、美咲がウェルビーイングを支える脳の3つのメカニズム(意識・思考・感情)を理解し、それを日常生活と仕事に活かしていく過程をお伝えします。
なぜ同じ状況でも人によって感じ方が違うのか?どうすれば感情をコントロールできるのか?脳科学の最新知見から、実践的なヒントをお届けします。
美咲の成長物語は、まだ始まったばかりです。次回も楽しみにお待ちください。
【執筆者】
Social Healthcare Design 株式会社 代表取締役 亀ヶ谷正信
HP https://www.s-h-d.co.jp
書籍 https://amzn.asia/d/cC9OKZK
研修等のお問い合わせはこちら: mail@s-h-d.co.jp
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・善玉菌を増やすプロバイオティクス
・善玉菌の餌となるプレバイオティクス
・乳業大手が相次ぎ“次世代商品”発売
・メタボロ一ム解析で数千種類の代謝産物を特定
「プロバイオティクス」や「プレバイオティクス」という言葉はすでに一般的にも使われるようになってきた。腸内細菌は、腸管内で一定の平衡状態を保ちつつ互いに共存しており、通常は無害である。健康に良いと言われる善玉菌が約20%、健康に有害な悪玉菌が約10%、残り70 %はほとんど何も影響を与えない「日和見菌」とされており、これらの細菌たちが腸内細菌叢というコ ロニーを形成している。
ところが、何かの原因で腸内細菌叢のバランスが崩れて悪玉菌が増えると、有害物質や有毒ガスを作り出し、それが体内に吸収され、便秘や下痢、時には重篤な疾患を引き起こす。それが長期にわたると免疫力が低下し、病原菌へ感染リスクが高まり、発がん物質の産生を促進させるといった事態が起こる。しかも、一旦減少した善玉菌を腸管内で再度増加させることはなかなか難しく、時間がかかる。
プロバイオティクスとは、生物間の共生関係(probiosis)を意味し、抗生物質 (antibiotics) に対比する言葉でもある。「腸管内の善玉菌を増やして、腸内細菌のバランスを改善することにより、宿主に有益な作用をもたらす生きた微生物」と定義されており、Lactobacillus属に代表される「乳酸菌」や Bifidobacterium属である「ビフィズス菌」、Bacillus属の「納豆菌」など、菌そのものを総称する言葉として使われるとともに、これらの善玉菌を積極的に外部から腸管内に送り込む動的な意味合いでも使われる。
善玉菌の代表格である乳酸菌は見つかっているものだけで400種類以上あり、その機能が特定されているものでも50菌株に及ぶ。もう一つの善玉菌の代表であるビフィズス菌は40種類ほどが見つかっており、人の腸内に住むビフィズス菌は6~ 7種程度。ちなみに、人の腸内では圧倒的にビフィズス菌の機能の方が大きいと言われている。
一方、プレバイオティクスとは 1994年にイギリスのGibsonとRoberfroid によって提唱された概念で、「大腸に常在する有用菌を増殖させるか、あるいは有害な細菌の増殖を抑制することで宿主に有益な効果をもたらす難消化性食品成分」 と定義されている。いわゆるオリゴ糖類や難消化性デンプン、食物繊維など、腸内の善玉菌の餌になるものがこれにあたる。プロバイオティクスと同じようにこれらの成分を外部から積極的に腸管に送り込むこともプレバイオティクスと呼ばれる。
つまり、プロバイオティクスが菌 そのものの作用によって腸内環境を改善するのに対し、プレバイオティ クスは善玉菌の餌となる食品成分を摄取することによって腸内環境を改善する。ここで言う「有益な効果」 とは、一般的には下痢や便秘などの大腸症状の緩和であることが多い が、一方で、感染防御や免疫調整、 血圧や血糖の調整、ミネラル類の吸収促進、ストレスの緩和など、広範囲な効果も範疇となる。
そして、ここにきて新しく「シン バイオティクス (synbiotics)」という言葉が使われだした。簡単に言えばプロバイオティクスとプレバイオティクスを組み合わせたもので、双方の機能がより効果的に宿主の健康に有利に働くことを目指すというものだ。
医療の臨末現場においては、シンバイオティクス療法として病態者や術後における感染防御、炎症抑制などにおいてすでに効果を示していた。しかしこれらはあくまでも医師の管理下で行われるもので、今まで、このシンバイオティクスという概念を一般市場に落とし込むといった考えがあまりなかった。
ヤクルト本社は、既に2017年か ら「シンバイオティクス ヤクルトW』を発売していたが、昨年10月からハードタイプヨーグルト「シンバイオティクス ヨーグルトW』を新発売した。「生きて腸内に到達する乳酸菌シロタ株と、腸内の乳酸菌を増やすガラクトオリゴ糖を一緒に摂ることができる」と言うのがその宣伝文句だ。そして、商品正面には「シンバイオティクス」の大きな文字が躍る。
一方、森永乳業も昨年9月に、「ビフィズス菌BB536』を配合した「ビヒダスヨーグルト」シリーズから、 『ビヒダスシンバイオティクス プロテイン ヨーグルトドリンクタイプ』、 「ビヒダス シンバイオティクス プロテイン ヨーグルト』を発売した。ビフィズス菌BB536に加えて、おなかの中でビフィズス菌を元気にする「食物繊維イヌリン」、さらには、体に必要な栄養素である「たんぱく質」を配合、ビフィズス菌研究50周年の森永乳業だからこそ提案できる3つの健康素材の組み合わせを、これひとつでまとめて摂取することができる。
大手乳業メーカーの動きは、本格的なシンバイオティクス市場の形成を予感させるものだが、少し前までの腸内細菌研究は、検体から一つひとつの菌を分離培養して調べるしか方法はなく、多くの時間と手間がかかる割にはその研究はなかなか進まなかった。
しかし、21世紀に入ってオミッ クス解析という手法が可能になった。次世代シーケンサーという機器の登場によって、検体から菌を分離培養しないで、検体丸ごとからDNAを抽出して菌種を同定することが可能になり、それまでほとんどが培養不可能であった腸内細菌の全菌種(細菌叢) が明らかになった。これによって食品としての機能性研究だけでなく、医療の診断・治療・検査部門までにも革新的な変化をもたらした。
中でも、「メタボローム解析」という手法は、腸内細菌の研究に長足の進歩を与えた。この解析によって腸内細菌がプレバイオティクスを餌として作り出す脂肪酸などの数千種類におよぶ代謝産物の総体を網羅的に解析することが可能となり、それらの代謝産物の機能性も次々と明らかになってきた。
乳酸菌生産物質を製造する光英科学研究所は、この技術を活用して原液を解析。乳酸菌生産物質に含まれる物質の機能性を明確にすることにより、人の体にどのように役立つ物質が存在しているのかをDNAレベルで証明するため、国産無農薬大豆から作成した豆乳を培養基として発酵させた複合乳酸菌生産物質についてメタボローム解析を実施。その結果、34のペプチドを含む水溶性235種、脂溶性117種の計353種の代謝産物を検出している。
メタゲノム技術を駆使すれば、まとめて500種の解明が可能になり、代謝物質の特定も可能となる。近年の研究からは、代謝産物の1つである酢酸やプロピオン酸、酪酸などの短鎖脂肪酸が多くの有益な機能を持っていることが徐々に明らかになってきている。これらの研究は細菌自体の遺伝子情報を網羅的に解析することができる「マイクロバイ オーム解析」等と組み合わせる形で、今後さらなる新機能が次々と発見されることは間違いない。
取材:Premec RD編集部
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